奈良学園高等学校?中学校は奈良県の大和郡山市に位置しており、校内には棚田、雑木林、自然林などを有する7ヘクタールの里山があり、里山づくりをテーマに活発な教育が行われています。私は平成27年度から奈良学園高校の化学分野の理科指導員として微力ながら貢献しています。
平成28年度は、酸性雨が森林に与える影響を明らかにするテーマで、校内の里山の林外雨(木に接触することなく降る雨)、林内雨(木の葉、枝などに触れた後、森林内に降る雨)、樹幹流(木の枝、葉などに降った雨が、幹を伝わって流れる雨)に溶けているイオンの濃度、pHを調べました。
スーパーサイエンスハイスクールの実習では、高校生と里山でフィールドワークを行い、樹幹流や林内雨に溶けているイオンの成分、pHが木の種類や葉の形の違いなどによって、大きく異なるなど、高校生が調査結果に疑問を持ち、自主的に次の研究課題設定をできるように、木の選定について工夫しました。その結果、ヤマザクラ、コナラ、ヒノキ、アカマツからの樹幹流の採取に加えて、針葉樹雨林および広葉樹林の林内雨の採取を行うことになりました(写真1)。
8月の国内研修では、高校生に2泊3日で神戸大学へ来学いただき、林外雨、林内雨、樹幹流に溶けているイオンの濃度をイオンクロマトグラフで分析しました(写真2)。また、得られたデータ解析方法や、聞き手に分かりやすく伝えるためのプレゼンテーションの方法を高校生および教員、大学の研究員を交えて議論しました。高校生からは、「普段、目にすることのない高価な分析機器を使い、その原理を知ることができました。研究には色々な科目を学ぶ必要があることがわかりました。友達と真剣に議論できたことが新鮮でした。」などの感想が寄せられました。
研究成果として、奈良学園高校付近の年間の林外雨のpHの平均値は5.8で、酸性雨(pH5.6以下)が降ることは稀であることがわかりました。林内雨は広葉樹林よりも針葉樹林の方が、pHが低下していました。この原因を探るため、里山で採取した葉や樹皮を純水に浸した際に溶出するイオンを調べたところ、アカマツの葉から硝酸イオンが顕著に溶出していることがわかりました。
次年度の課題として、アカマツの葉の硝酸イオンの起源について調べることなどが挙げられます。これらの研究成果を高校生が奈良SSHフェスティバル2017、グローバル?サイエンス?フォーラムなどで発表し、グローバル?サイエンス?フォーラムでは奨励賞を受賞しました。