水道水を濁りのない安全な状態で供給するためには、上水道原水に含まれているコロイドと呼ばれる非常に小さな粒子の除去が欠かせません。このコロイドの除去のため、上水道原水の浄化処理の際に、アルミニウム(Al)イオンを主成分とするポリ塩化アルミニウム凝集剤が使用されています。ところが、このAlイオンの過剰摂取はアルツハイマー病の遠因となるほか、魚毒性や植物の生育阻害の要因となるため、水道法の水質基準では水道水中のAl濃度をわずか0.1ppm(一千万分の一)未満に抑えることが求められています。つまり、上水道原水の浄化処理に不可欠なAlイオンを浄化処理後にはできる限り排除する必要があるのです。
この矛盾した処理を行うため、浄化処理前後の上水道原水中のAlイオンの正確な濃度を知ることはもちろんのこと、Alイオンがどのような形(構造)で水中に溶けているかを正確に知る必要があります。水中ではたくさんのAlイオンが集まった特殊な多核錯体(ケギン型構造等と呼びます)が存在し、コロイド状水酸化物の生成など複雑な反応をするため、その詳しい性質は解明されていませんでした。このAlイオンの検出にはこれまでフェロン法という色素を用いた方法が行われていましたが、この方法はアルカリ性の水溶液では用いることができない上に、分析に少なくとも数時間必要であるため、経時変化を明確にすることが不可能であること、分析結果に個人差が現れやすい等の欠点がありました。
私達は、Alイオンの正確な成分分析を行い、Alイオンの汚泥凝集機構や環境中での動態を解明するために、定量27Al NMR法という世界初の全く新しい分析手法を今回開発致しました。Al濃度が高い場合、加水分解による不溶性水酸化物が析出した後、ケギン型十三量体クラスター(図3中央部分)が生成し、数か月でポリマー種に変化することが明らかとなりました。今後このポリマー種の精密な検出によって、凝集に効果があり、かつ環境に与える影響の少ないアルミニウム凝集剤の設計を目指します。これらの研究成果は、神戸大学からプレスリリースされ、さらに国際的な学術団体であるRSC(The Royal Society of Chemistry、英国王立化学会)の学術誌Analyst誌に論文発表されました。
【参考HP】
http://www.spectroscopynow.com/nmr/details/ezine/15582b366b1/Quadrupolar-study-Aluminium-in-water.html