私たちの周りの環境にはSOx、NOx、カドミウムやヒ素、放射性物質、ダイオキシンなど、汚染場所や化学構造、毒性も多種多様な汚染物質が存在しています。これらには分解されにくく(環境に長く留まる)、脂肪に極めて溶けやすい(脂肪組織に蓄積)汚染物質が知られ、国際的に使用が禁止されているにもかかわらず、私たちの知らないうちに河川、海洋、農耕地、さらには北極?南極にまで拡がって汚染しています。このような性質のため私たちヒトを含む生態系の上位に位置する動物に生物濃縮され、発がんなどの毒性をもたらします。動物にとって食料の摂取は生きていくために必須ですが、同時に汚染物質の生物濃縮の最初の段階となり、汚染経路の大部分を占めています。すなわち、食料の汚染を防ぐこと、そのメカニズムを調べることはヒトへの汚染を防ぐためにとても重要です。
植物は土から根を通して、成長に必要な水や栄養分とともに汚染物質も吸収します。キュウリやカボチャ、ズッキーニなどのウリ科植物はその他の植物と比べ脂肪に溶けやすい汚染物質を葉や茎に高濃度に蓄積します(図4)。脂肪に溶けやすい汚染物質とは、ごみの焼却によって発生するダイオキシンや、かつて工業製品に使用されていたポリ塩化ビフェニルなどを指します。すなわち、ウリ科作物を食べることによって汚染物質を摂取し、体内に蓄積してしまう可能性があります。しかしなぜウリ科植物だけが汚染物質を蓄積する性質を持つのか、長く謎のままでした。
私たちは非ウリ科植物に比べてウリ科植物が、脂溶性汚染物質を葉や茎に100倍以上高濃度に蓄積することを明らかにしました(図5)。さらに、植物の茎を切ったときに滲み出てくる導管液という液体に、汚染物質と結合して根から葉や茎に輸送するタンパク質が存在することを発見しました。この研究成果から、輸送タンパク質を汚染物質と結合しないように変化させたり、輸送タンパク質の量を減らしたりすることがキュウリやズッキーニの汚染を防ぐ方法として考えられました。反対に、輸送タンパク質を植物にたくさん作らせることができれば、汚染物質を効率よく蓄積できる環境浄化植物を作り出すことができます。植物を利用した環境浄化方法はファイトレメディエーションと呼ばれ、土の中に張り巡らされた根を利用して広範囲から汚染物質を植物に吸収?濃縮させ、環境から効率よく取り除くことができます。さらに、この方法の最大の特徴は光エネルギー利用をすることができることから、持続可能な環境保全技術として有望です。ウリ科植物を用いた研究は、安心?安全な食料の生産につながる可能性があります。