昨今の気象に関するニュースを見聞きしていると、いかに地球環境が不安定なものかを実感させられる。大雨による洪水、台風、夏場の異常高温、冬場の異常降雪?低温など枚挙にいとまがない。そして、これらの程度は予報?予測を上回る事例も多く見受けられる。しかも、異常気象が必ずと言っていいほど農作物に被害をもたらしている。つまり、現代の農業では、これら異常気象から守ってやらなければ農作物は確かな生産性?収量を約束できない。
農作物に被害が生じるとき、作物の体内では酸化障害が生じている。酸化障害は、細胞内の営み(細胞代謝)が障害を受けることが原因であり、そこでは、活性酸素(Reactive Oxygen Species, ROS)が生成しており、ROSが細胞代謝を破壊している。我々は、これまでの研究で作物でのROSの生成様式を明らかにしてきた。生葉細胞内の葉緑体は、光のエネルギーを用いて二酸化炭素を有機化合物である糖へ変換する光合成を営んでいる。生育環境の変動は、光合成の能力を低下させ、光エネルギーの糖への注入効率が落ちてしまう。これは、エネルギー余り状態をもたらし、過剰となったエネルギーはO2の活性化をもたらし、ROSが生成する。
我々は、ROS生成様式を明らかにする過程で、ROS生成の兆候を把握することに成功した。ROSは、葉緑体チラコイド膜の光合成電子伝達系に存在する光化学系Iで生成する(図1)。環境変動は、光合成を駆動させるためのNADPHの生成を低下させ、光エネルギーの行き場をなくす。このようなときに、葉緑体では、光化学系I反応中心クロロフィル分子P700の光励起状態P700*分子(O2を活性化しROSを生成する分子的実体)の存在割合を低下させるために、P700が酸化された分子である酸化型P700 (P700+)の存在割合を大きくするメカニズム(P700酸化システム)が存在することを、世界に先駆けて我々は見出した。このP700+は、生葉で、これまで世界の多くの研究者の間で観測されてきたが、その存在理由を初めて解明することに成功した。生葉でP700+が観測されるということは、作物はROS生成の危険な状況にあること、つまり作物の生育が脅かされていることを意味する。
我々は、現在、生葉でのP700+を簡便に検知測定できる機器開発を行っている。これによりROS生成の危険性を把握し、さまざまな変動する環境で生育しなければならない作物の健康診断法の開発に取り組み、作物のROS障害回避に役立てることを目論んでいる。